退職ブログ:2019年にカプコンを退職した話(2)

ゲーム会社の作曲家はサラリーマン

ゲーム会社のコンポーザーは傍から見ればプロの作曲家。でも作曲家といえどサラリーマンだ。安定収入を得ながら作曲家として生計を立てられる1つの手段として、ゲーム会社はとても魅力的に映るだろう。

実際楽しくやりがいもあった。ゲーム会社でしか得られないノウハウやゲーム制作の現場を経験できた。別に会社員とフリーランスのどちらが良いかという議論をするつもりはない。ただ、自分の場合はどこかで会社員だから仕事を与えてもらっているという甘えがあり、会社の看板におんぶに抱っこ状態という寂寥感を感じていた。そうして辞めようと思ってから実際に辞めるまでは2年かかった。

ゲーム会社での作曲家の仕事は多岐に渡る

一般の作曲家はひたすら音楽を作り続けるイメージだと思う。でもカプコンでの仕事は多岐に渡った。話すと驚かれることが多いが、作曲以外にもゲームへの実装、仕様設計、新人育成、マネジメント、スケジュール管理、サウンド社内・社外WEBサイトの運営、プロモーション対応、社内情報共有・・・など挙げだすときりがない。当時は色々な事を並行してやっていた。でも自分はつくづくマルチタスクが合わない性分だ。だからその働き方が向いていないことに気づくまで多くの時間がかかった。

入社前はずっとRPGの音楽が作りたいと思っていた。実際面接の時にもカプコンでブレスオブファイアの音楽を作りたいと言っていた。でも気づいたら業務の半分以上は音楽制作以外が占めていた。これは会社側の問題というより、そうなるよう自分も自然と合わせていっていたからだろう。

誰かがクリエイティブ以外の役割を担うことでクリエイターが活かされる。会社である程度キャリアを積むとマネジメントをする立場に少なからずなってくる。だからある程度責任の大きな立場を任されるようになって、自分はサウンドディレクターという立場に甘んじていたように思う。自分も作っていたのでとにかく忙しかった。(自分で忙しくした。)

立場やポジションがないと意見が通らないことはわかっていた。会社とはそういうものだと思う。自分は、同じ人間なのに誰が偉い、偉くないというのがいまいちピンと来ず、同じ人間なのに…と思ってしまうタイプなので、ことこの上下関係という枠が強い中はとても息苦しかったように思う。

プロの作曲家ではなく、プロの会社員へ

自分は複数を同時に進めるのが苦手なので、事務仕事やマネージャー職は向いてなかった。というより他に向いている人がもっといる。(これは辞めてから気づいた)

何か1つに専念しないとうまく立ち回れないタイプだった。でも人へのおせっかいは好きなので、努力でカバーして無理してやっていたのだと思う。実際面倒見は良い方だったので苦ではなかった。作曲は行き詰まると辛いので、一時は曲を作りたくないとさえ思った。そうして慌ただしく日々は過ぎ、作曲以外の仕事をすることが増え、結果的に会社では総合力が鍛えられた。

早く辞めた同期が会社で学んだ1番大きなことは、取引先へのメールの書き方だったと言う。大げさかもしれないが、あながち間違ってはいない気がする。自分の専門性を活かそうと思って入ったのに、総合的な仕事に進んでいく違和感。プロの作曲家になりたかったのにプロの会社員になっていく、自分でも気づかないうちに真逆の方向に進んでいた。

実際制作に専念するよりも管理職の方が社内では重宝されていたかもしれない。はっきりと自覚は無かったがそこに先の見えない危機感はあったのだと思う。

そんな感じでフリーランスになるまで1年間悩み、更に1年間引き継ぎをして会社に留まり結果的に2年かかった。すぐに辞めなかったのは周りの人に恵まれていたからだと思う。でも辞めた今は今で日々幸せに過ごしているし、辞めたことに後悔は全くない。辞めてから得られたことがそれ以上に大きかったからだ。

もし、今の状況に不安や不満がある人がいたら会社を辞めるまでしなくとも、日々の時間の過ごし方、無意識にやってしまっているルーティンが必ずあるはずなので、少しずつ本当はどうしていきたいかを考え、変化を起こしていくといいと思う。

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